ストーリーはもちろんだけどアクションシーンがちょっと半端ない。/スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム レビュー

 まさか自分がこんなにスパイダーマンを好きだと思っていなかった。公開日だということを知ってから足早にレイトショーに、コーラもポップコーンも持たずに行ってきた。

ふと公開日のことを思い出してから映画館に着くまで多分30分ぐらい。それだけスパイダーマンというものが自分の結構な芯の部分にあるコンテンツだということがわかる。サム・ライミ版から全部劇場で観てるもんな。

 

そんな自分にとって最も親愛なる友人スパイダーマンのレビューなんだけど、物語はともかくとしてアクションシーンがヤバイぐらい激ヤバだったので、簡単にやっていきたいと思う。ネタバレします。

 

 

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強く「スパイダーマン」的なアクションの序盤

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序盤はヴェネチアプラハというすげークラシックな街並みの中でのバトル、というかほぼ紐縛り合戦になるんだけど、ここは極めてスパイダーマン的なアクションだった。それもサム・ライミ版にすごく近い。

ミステリオの緑スモークモクモク&大量の水、炎の演出が美しく新しく、それでいて妙に「いつも通り」だ。一般的なヒーローの登場感があるのだろう。

違和感の正体を探っていったらあれだ。グリーンゴブリンの登場シーンっぽい。それもパパの方。10年以上前のあの爆弾が「キューン」って音するやつ。(しないかもしれない)。美しいけれど、「既視感」という意味で写実的なのだきっと。

 

そこからのお約束タワー崩壊。紐でキュッとして、グァーっていくやつ。これ全作お約束のやつだ。電車と船と落ちるレイディとその他諸々を窮地から救う仕組み。×今度は鐘ときた。これ完全にヴェノム戦の高揚感を思い出させるシーン。きっと既視感と謎の高揚感は、全てこの混ぜ合わせだからできてるのかもしれない。

かれこれそんなこんなで「伝統芸を私服で魅せる」ヴェニス戦は短く、抑揚が無いはずなのに、異常に高揚感を与えてくれるものだった。それはスパイダーマンを10年いや20年追っているオタクだからわかるセンスである。ボーナスである。わかってやってるのかなマーベル。

 

 

AR野郎ミステリオ戦での「没入」

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そこから舞台はプラハへ。最近のスパイダーマン平成ライダーかってぐらいフォームもといスーツ変えてくる。ステルススーツの「あ、こんな感じでもスパイダーマンスパイダーマンなのね」という発想の転換は妙に現実的な感じがあって、のちに続く。原作では「VFX使い」らしいミステリオの、AR攻撃である。ARなのかVRなのかこの場合どっちなんだ。何しろ音と光が我々の信じるもののほとんどを司るのはいうまでも無い。

 

ここから物語も戦いのルールも、全てが揺らめき、それは全く新しいものになる。心を委ねたミステリオはサイコで矮小なペテン師であり、目に見えるものは全て疑わしい光と音の幻になる。

 

この感覚、鍛え抜かれた平成生まれのオタク達は皆知っている。鏡花水月である。

鏡花水月の能力。完全催眠。当時の読者は皆、それを知った瞬間に10冊ほどは単行本を持ってきて、観てきたものをもう一度遡り出したろう。「は?」と。「どこから?」と。つまり一瞬で、画面の向こうの我々の記憶を頼りなく情けないものにしてしまったのである。それまでも、それからも全く信用できない。

ミステリオ氏のそれはまさしくその能力である。現実と非現実を小気味よく織り交ぜ、そして非現実トラウマで圧し潰す。ここら辺はちょっと月読っぽい。最初怖すぎて泣いた。いやなんかスパイダーマンいっぱい出てくるの怖すぎでしょ。なんか最近見たと思ったらヒロアカだった。先取りだったのかよ

 

トラウマ投影、スパイダーマン増殖、アイアンマンゾンビ化を経て、この辺りからなんか、日頃の映画とは全く違う体験になってきた。CGぶっかけ丼状態なのになぜか没入がすごいのである。アニメ観てる男の子がパンチキック言いながらパンチキック自分でしちゃうあれ。勝手に手が出る。つーか、指が動く。なんだこれ。あれ。

 

 

最近やったゲームだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そう。あれ。これ。めっちゃCGぽかったからかな。めっちゃそんな感じ。やばい。そういう意味での没入がやばい。だんだんゆっくりゆっくりで記憶と視覚をバグらせてくるから、めっちゃCGに慣れてゲームっぽくなる。なんなのこれ。そうこうしてる間にオランダ超特急。

 

 

 

アイアンマンを継ぐ者へ/ロンドン戦

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いやーもう、スーツ作ってるシーンとかさーぁ、ホログラムを指で「スィン」ってしてるところとかさーあ、もう完全に師匠じゃん、トニー師匠じゃん。明確に諸々超えて(いやそれにしては短いんだけど)もう完全にネクスト・アイアンマンのそれなわけですよ。よく出来た理系学生の設定からアイアンマンに迫る知能って設定まで飛躍させるのはちょっと無理があるけれど。兎にも角にも彼はもうアイアンマンなわけですよ。立派な。

敵もお誂え。スタークさんのドローン一山。場所もロンドンブリッヂ、飛行機から投下、何もかも申し分なし。アベンジャーズがあったらほぼアイアンマンさんがやるとこなんですね。それをやる。一人で。完膚なきまで。

ここはもう完全に。スパイダーマンのアクションじゃなくなってるんですよ。規模も太さも。爆発もスマートさも。アイアンマンの戦い方。なんていうこういうの。横綱相撲。ちょうどチャフ撃ってた頃のかわいいアイアンマンっぽい。軽快なんだけどとにかく、骨が太い。負ける気がしない。これからのスパイダーマンって、こうなんだねっていうのがすぐわかった。全然怖いものなんてないって感じ。

 

 

 

ムズムズ・紐なし・AR破れたり。

そしてラストバトル。AR一本勝負。ムッチャクチャ速くて美しい。そこに「スパイダーマン2」同様のスパイダーセンスリターンズ。最後の銃掴むまでの流れが完璧すぎる。

この頃になるともう身体っていうか目っていうか指が完全にVRモードでして、兎角没入ですよ。球がきたら首で避けちゃう。つーかめっちゃ方向キー押しちゃう。空で。もうなんかあれだよ。格ゲー。又は音ゲー。それかキングダムハーツとかのフイのコマンド押しイベント。ノーミス気持ちいい系の。

 

そして最後の嘘を破った時、全てが砕ける。明るい空が見える。ナマの音と光が入ってくる。

なんかこうまとめるといつものスパイダーマンのラストと違うね。どちらかというと静かな暗闇に落ちることが多かったのかもしれない。なんにせよ新しすぎるスパイダーマン体験でした。二度と味わうことはないでしょう。

 

 

 

高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない

とはよく言う。誰が本当で夢か。なんて裏で動く事象の全てを知っていないとわからないのであり(なんか何故かラプラスの魔っぽい)、理由がわからない限りは見たものが現実だって、あるいは魔法だと思ったって、きっといい。

でも、なにかの嘘を暴かれることで、スクリーンの彼方と此方の両方を、信じられたり、あるいは信じられなくなるような映画は今回が初めてでした。きっと二度とないでしょう。

 

スパイダーマンとかいう超メイン作品でこれをやる凄さ。次が超楽しみ。フェーズ4だっけ。